きものの紋について
きものの紋とは?
きものの紋には、自分の家の家紋と、家紋には関係ない洒落紋があります。
家紋は、個人や家族を識別するために用いられる日本独自の紋章です。その種類は、5,000あまりから20,000以上まで、諸説あるようです。
洒落紋は、こうした意味を離れて、草花や自分の好きな模様を選んで遊び心で楽しむもの。無地の紬などのおしゃれ着に用います。替紋、伊達紋と呼ばれる、家紋をアレンジした洒落紋もあります。
紋付の歴史
家紋の始まりは、平安時代(8世紀後半〜12世紀後半)の後半まで遡ります。朝廷に仕えた貴族が、衣服や調度品、移動に使用した牛車に各家固有の文様をあしらったことがきっかけで生まれたといわれています。その後、鎌倉時代(12世紀末〜1333年)の武士たちが、戦場で敵味方を見分け、一族の武功を誇示するために家紋を使うようになりました。そのため、遠くから見てもすぐにわかるシンプルなデザインで、武運高揚、子孫繁栄などの意味を含んだ家紋が多く生まれたそう。武士から町民の時代となる江戸時代には、苗字を名乗ることが禁じられていた庶民も家紋を使うようになり、明治維新を経て、誰もが家紋をもつことができるようになりました。本家から出て分家を構える際は、もとの家紋を丸で囲むなど、少しだけアレンジが加えられることが多かったため、膨大な種類があります。
紋はどんなきものに付けるの?
きものは、紋を入れることによって格が上がります。きものによって、紋を必ず入れるべききものと、入れても入れなくてもよいきもの、紋を入れるのにふさわしくないきものがあります。
必ず紋を入れなければならないきものは、黒紋付と黒留袖、色留袖。黒紋付と黒留袖は、必ず五つ紋を。色留袖は、一つ紋、三つ紋、五つ紋のうちのどれかを入れます。
次に、入れても入れなくてもよいきものについて。訪問着は現在、紋を省略することが多く、入れても一つ紋、大変豪華なものは三つ紋を入れることもあります。附下は、輪郭や中の線を白く抜いた陰紋(かげもん)か、刺繍で文を縫い付ける縫紋(ぬいもん)の一つ紋を入れることで準礼装として着ることができます。色無地は、汎用性が高い一つ紋を入れることが多く、三つ紋を入れると一つ紋の訪問着よりも格上になります。江戸小紋は、格のある「鮫」「角通し」「行儀」の江戸三役と呼ばれる柄であれば、一つ紋を入れることで準礼装になります。紬は、洒落紋なら入れても構いませんが、通常は入れません。
紋を入れるのにふさわしくないきものは、観劇や私的な食事会などの、プライベートな楽しみのために着るもの。一般に、軽い附下、趣味性の高い柄の訪問着、小紋、紬、そして浴衣には紋は入れません。
紋の格
五つ紋
背中の真ん中の「背紋」1つ、両袖の「袖紋」2つ、前身頃の胸上の「抱き紋(胸紋)」2つで、計5つの紋を入れたきもののこと。黒紋付、黒留袖には必ず入れ、第一礼装とします。色留袖にも入れることがあり、その際は黒紋付、黒留袖と同様に第一礼装になります。
三つ紋
「背紋」1つと「袖紋」2つで計3つの紋を入れたきもののこと。色留袖に入れると準礼装になり、主賓の装いに。色無地に入れても準礼装となり、一つ紋の訪問着よりも格上になります。
一つ紋
「背紋」を1つ入れたきもののこと。色留袖、訪問着、色無地、「江戸三役」の江戸小紋、附下などに入れると、準礼装として着ることができます。
紋の種類
日向紋(ひなたもん)
正式な家紋を入れる際の、もっとも格の高い紋。紋のモチーフを白抜きにして、輪郭や中の線を上絵として加えます。
陰紋(かげもん)
日向紋とは逆に、輪郭や中の線を白く抜いたもの。準礼装、略式礼装に用いられます。
中陰紋(ちゅうかげもん)
日向紋と陰紋を組み合わせた紋で、陰紋よりも太い白線で紋を表現したもの。格は日向紋と陰紋の中間にあたります。